byり

うふ♡

《回想》十字架



日付が変わり、そろそろ寝よっかなーという頃
突然バタバタと駆け寄る足音に続いて聞こえた叫び声



お父さんが死んだかもしれない



慌てて飛び出した先で私が目にしたのは、呼吸といっていいのかわからない、不気味な音を小さく立てて横たわっている父の姿










指示の声
サイレンの音
緊張だけの時間
送り出す不安
サイレンの音
沈黙



夜は続いた
6月だというのに暖房や冬物衣料がなければ耐えられないほど寒い寒い夜だった










父のタバコを思いっきり吸っていた
この煙が、このニオイが
届いているか
届け
戻ってこい
戻ってこい
戻ってこい
戻ってくるんだろ
戻ってこねぇーとこのタバコが吸えねぇーんだよっ!










今こんなこと(処置)をしてるという連絡が、帰るに変わった
数時間前には生きていて、笑いながら動いていた父は55歳でこの世を去った



死んだ
私のせいで
命を粗末にした私の
私が受けるべき制裁を
父が受けてしまった
私のせいだ
私が殺した
私が殺った



帰宅した父を一目見るなり狂ったように言葉にならない叫び声を上げていた










自分だけが特別な時間の中にいるような気もしていたけれど朝は平等に訪れた
平等に朝を迎えた










何年もの間
サイレンの音に反応した
1人きりの時間は何度も何度も遺影に向かいながら自分を責め、迎えに来いと、連れて行けと願った

なんで私じゃなかったんだ

冬の終わり春の兆しを感じるようになると、緑が濃くなると、この日が近づくと、周囲の華やかさに反して気持ちが重く重く沈み、泣き崩れる日が増えた










一睡もすることなく迎えた14年前の今日という日





今年もこの日を迎えた
迎えられた










どこに真実があるのかはわからない

けれど、たとえ思い込みだったとしても、私が毎年この日を迎えられるのは、目に見えない十字架のおかげかもしれない



ご訪問いただきありがとうございます。
byり